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日本の水道・下水道インフラが抱える“今” BIMとシステムで変えられるか?

こんにちは。

第24回は、「日本の水道・下水道インフラが抱える“今” BIMとシステムで変えられるか?」です。

今回は、日本で相次ぐ道路陥没・水道管破裂事故と、BIMやシステムを使ったインフラ管理の可能性について考えてみたいと思います。

今年、一例として以下のようなニュースがありました。
・埼玉県八潮市で、老朽化した下水道管の破損が原因とされる道路陥没事故が発生。
・沖縄県大宜味村で古い導水管が破裂し、広域で漏水および断水が起きました。

これらの事故は、他人事ではなく、どの地域でも起こり得る“インフラ老朽化の現実”を私たちに突きつけています。
本記事では、こうした課題を整理しながら、BIMやシステムを用いた“見える化/管理強化”の可能性について考えてみます。

是非最後までご覧ください。

Agenda

1. なぜ老朽化インフラの事故が増えているのか?
2. 最近の事故から分かる日本の水道・下水道インフラの課題
3. BIM・デジタル技術によるインフラ管理の可能性
4. 具体的な活用シーン:設計・点検・維持管理への応用
5. 注意点と限界
6. まとめ

1.なぜ老朽化インフラの事故が増えているのか?

日本では高度経済成長期から敷設された水道管・下水道管が多く、敷設後50年を超える管も少なくありません。
こうした老朽管は年月とともに劣化し、腐食・破損・ひび割れなどが進行します。
特に近年は、気候変動による集中豪雨や侵食、地盤変動などの外的要因も加わり、管路にかかる負荷が増大し、結果として、事故のリスクが高まっていると考えられます。
加えて、多くの管路が地下に埋設され「見えない」ため、適切な点検や管理が追いつかず、破損・破裂に気づかず放置されるケースも増えやすい状況です。

2.最近の事故から分かる日本の水道・下水道インフラの課題

■ 八潮市道路陥没事故(2025年1月)

この事故では、老朽化した下水道管の破損が原因とされ、道路が幅約10メートル・深さ約6メートルの大きな穴に陥没。
トラックが転落し、多数の住民・通行者に重大な危険が及びました。
県は2026年4月にも暫定的に通行が可能になる見通しを示しています。

■ 沖縄県導水管破裂事故(2025年11月)

沖縄本島北部の導水管が破裂し、ダムから浄水場への送水が停止。
結果として、那覇市などを含む17市町村で最大37万世帯が断水の恐れに見舞われました。
管は1960年代に敷設されたもので、老朽化による腐食・サビが破裂の原因とみられています。

共通して見える問題点は、老朽化したインフラが全国的に深刻化している現状を象徴しています。
いずれの事例にも共通するのは、更新時期を迎えた管路が長年使用され続け、内部の劣化が進んでいても、地中に埋設されているため異常を事前に把握することが難しいという点です。
自治体によっては台帳情報が紙や古いCADデータのまま残され、位置情報が正確でないケースもあり、点検・計画段階での判断を難しくしています。

さらに、更新費用と人材不足の問題も重なり、限られた予算の中で優先順位をつけて改修せざるを得ない状況が続いています。
その結果、潜在的なリスクを完全に把握しきれず、今回のような突発的な事故につながりやすい構造的課題が浮き彫りになっています。

3.BIM・デジタル技術によるインフラ管理の可能性

近年、老朽化インフラの管理において、BIMをはじめとしたデジタル技術の活用が大きな注目を集めています。
特に、地中に埋設された水道管や下水管のように、目視で確認できない設備に対しては、正確な位置と状態をデジタル上で一元管理できることが大きな強みです。
BIMモデルに埋設物の位置、材質、施工年、更新履歴、点検記録などの属性情報を紐づけることで、現場へ行かなくてもインフラの状態を把握し、劣化リスクの高い箇所を効率的に抽出できます。

また、BIMを基盤としたデジタル台帳を構築することで、これまで自治体ごとに形式が異なっていた資料を統一し、担当者の交代や長期的な運用にも耐えられる“持続可能な情報管理”が可能になります。
さらに、視覚化された3Dモデルは、住民説明や改修計画の合意形成にも役立ち、インフラ整備に関する透明性を高める効果も期待できます。

加えて、BIMとGIS、点群データ、IoTセンサーなどの技術を組み合わせれば、リアルタイムの監視や劣化予測も現実的になります。
これらの仕組みを活用することで、突発的な事故の発生を最小限に抑えることができます。

4.具体的な活用シーン:設計・点検・維持管理への応用

老朽化が進む水道管や下水道管を安全に運用していくためには、日々の点検や維持管理を「効率的かつ計画的」に進めることが欠かせません。
BIMや関連システムを導入することで、従来は紙図面や台帳、現場担当者の経験に依存していた管理業務を、デジタルデータに基づいた精度の高い運用へと大きく変えることができます。

まず、維持管理・点検業務の効率化です。
BIMモデルに埋設管の位置情報、敷設年、材質、修繕履歴といった情報を登録しておくことで、管ごとの状態を一覧で確認することができるようになります。
点検時には劣化状況や破損箇所を属性情報として追加し、データベースを更新していくことで、「どの管をいつ交換すべきか」といった判断を迅速かつ確実に行えるようになります。
点検漏れの防止や、修繕の優先度判断にもつながります。

次に、危険エリアの可視化と改修判断の高度化です。
BIMモデルをGIS(地理情報システム)や外部データと組み合わせれば、地震頻度、降雨量、地盤沈下履歴などの外的要因と照らし合わせながら、破損リスクの高いエリアを視覚的に把握できます。
これにより、自治体や管理者は「どこから改修すべきか」を合理的に判断でき、予算の重点配分にも役立ちます。

さらに、災害時の迅速な対応支援にも有効です。
道路陥没や浸水などの事故が発生した場合、モデルに基づいて影響範囲や関連する管路を素早く特定できるため、現場対応の開始が早まります。
緊急遮断や応急処置の判断がスムーズになり、住民への影響を最小限に抑えられる可能性が高まります。

最後に、ライフサイクル管理の高度化が挙げられます。
管路の施工から更新、廃止までの長期的なライフサイクルをBIMに統合管理することで、将来的な更新コストの見通しを立てやすくなります。
複数年にまたがるインフラ更新計画を策定する際にも、客観的なデータに基づいた判断が可能となり、財務管理の透明性や計画性が向上します。

このように、BIMとシステムを活用することで、老朽化が進む地下インフラの管理は「経験依存」から「データ主導」へと移行し、安全性と効率性の両立が期待できます。

5. 注意点と限界

ただし、BIMやシステム化を導入すればすべての課題が解決するわけではありません。
特に老朽化が進むインフラを正確に把握し、長期的に運用していくためには、技術以外の要素も重要な検討材料となります。

まず前提として、既存インフラの「現況把握」が欠かせません。
古い水道管や下水管の中には、図面が残っていなかったり、情報が不正確なまま運用されてきた例も少なくありません。
そのため、管路の位置や状態を正確に把握するには、地中レーダー探査やマンホール内部の調査など、実地での確認作業が必要となります。

また、デジタル化の推進に伴い、データ整備と管理にかかる負担が増える点も見過ごせません。
BIMモデルの構築や更新には一定の工数と専門性が求められ、特に多くの管路を抱える自治体では、データ管理体制の強化が不可欠です。

さらに、制度面や予算面の課題も存在します。
管路の更新や維持管理には多額の費用がかかるため、補助制度の活用や予算の確保、そして維持管理における責任分担の明確化など、技術導入を支える制度設計も同時に整えていく必要があります。

加えて、技術面や人材面のハードルも無視できません。
BIM運用やシステム管理には専門知識が必要となるため、ITリテラシーの不足や担当者のスキル不足がボトルネックになる可能性もあります。
導入後も継続的に活用できる体制づくりが、デジタルインフラ管理の成功には欠かせないポイントとなります。

BIMやデジタル技術は老朽化インフラの管理を大きく前進させる有効な手段である一方、正確な現況把握やデータ整備、制度・人材面の環境づくりなど、技術を活かすための基盤を同時に整えていくことが不可欠だと言えます。

6.まとめ

日本の水道・下水道インフラは、今回取り上げたような事故が示す通り、老朽化という“見えにくい危機”に直面しています。
管路は地下にあり、普段は存在が意識されにくいため、問題が顕在化したときには甚大な被害につながるおそれがあります。

しかし、BIMやデジタルシステムを活用すれば、地下インフラを「見える化」し、点検・維持管理・更新計画を戦略的に立てることが可能です。
こうした仕組みは、単なる技術の導入ではなく、将来の安全とコスト管理の土台となり得ます。

もし自治体様・御社で「老朽化する管路の可視化」をお考えでしたら、ぜひ一度ご相談ください。
目的や現状をヒアリングしたうえで、最適なBIM+システム構築のご提案が可能です。

命のインフラを守るために、技術と管理の両輪で、未来に備えましょう。

それでは次回のブログでお会いしましょう。